2011年1月アーカイブ

井上十吉の主著は、何と言っても、その辞典でしょう。


現在わたしたちの持っている研究社や三省堂のもっとも近代的な英和、和英辞典と明治初期から中期へかけての、まるで江戸時代の節用集よろしくといったような古い辞典とをブリッジするまことに大きな存在でした。


まだ石川遼 英会話などの勉強法もなかった時代にこれはすごいことでしょう。


ことに明治42年3月に出した『新訳和英辞典』のパイオニア的意義はきわめて大きいものです。


大正7年12月1日発行の『英語青年』誌に


「これまで色々な和英辞典があったが井上先生のが最も信用し得て最も便利とし最も世に行われていたように思うが・・・」


・・・という室田孤蓬氏の記事が出ていますが、この井上の「和英辞典」は明治42年に三省堂から出した『新訳和英辞典』のことです。


この改訂増補版ともいうべき『井上和英大辞典』を至誠堂から井上十吉が出したのは大正10年ですが、この時はからずも一つの悶着が起きました。


和英辞典の紛糾至誠堂から井上十吉氏の和英大辞典が出ると直ぐ、三省堂は江木衷氏を代理人として井上十吉氏を相手取り東京地方裁判所に和英字典出版差止並に珊一万円の損害賠償請求の訴訟を提起しました。


これは明治42年三省堂で井上氏の和英字典を出版した時、井上氏は類似の著書を他より出版しない約束であったのに、今度氏は類書を至誠堂から出した、契約不履行の為だといいます。


・・・すると至誠堂はこの訴訟を利用して新聞紙に辞典の広告を出しました。


三省堂は更に至誠堂を相手取り、信用回復賠償5万円請求の訴を起します。


至誠堂は中川博士を代理人として法廷に正邪を争うといいます。エグゼクティブトレードによると、これは双方の誤解から起ったことで相当の仲裁者があって意志の疏通を見れば円満に解決するでしょう。


・・・神田男こそ仲裁の適任者と思っていた。


が神田男は外遊する、事件は益々紛糾する。


この紛糾を解く人はないだろうか・・・。


と書かれています。

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